独自のアートプログラムに沿って創作活動を行うことにより脳が活性化し、認知症の症状が改善されることを目的として開発されました。臨床美術士が一人ひとりの参加者にそった働きかけをすることで、その人の意欲と潜在能力を引き出していきます。
1996年に医者・美術家・ファミリーケア・アドバイザーがチームとなって実践研究をスタートさせました。医療・美術・福祉の壁を越えたアプローチが特徴で、アートセラピーの先進国にも例を見ない先駆的な取り組みと言えます。
認知症の症状改善を目標として始まりましたが、現在では、
・介護予防事業など認知症の予防
・発達が気になる子どもへのケア
・小学校の授業「総合的な学習の時間」
・社会人向けのメンタルヘルスケア
など多方面で取り入れられ、いきいきと人生を送りたいと願うすべての人への希望をもたらしています。
臨床美術は主に、
・認知症高齢者
・MCI(いわゆる前認知症の人)
・心に問題を抱えた子ども
・発達が気になる子ども
・多忙なビジネスマン
を対象に実施されています。
認知症ケアの臨床においては、
・医師による診断
・臨床美術士による認知リハビリテーションとしての芸術活動
・ファミリーケア・アドバイザーによる介護者への精神的支援
の3点を柱とする包括的ケアとして確立しています。
脳の活性化には、視覚的、直感的な作業や芸術活動が効果的だということも知られています。しかし、ただ絵を描けば脳が活性化するわけではありません。
偉大な美術家の中には「創作する際に普段とはちがうものの見方をする」と言う人がいます。これを脳科学を用いて理論付けたのがBetty Edwards(米)の研究です。
Betty Edwardsは、「ほとんどの人は左脳を使って絵を描いている」「右脳を使って描かせることにより才能とは関係なく、急速に絵が描ける」と説明しています。
臨床美術はこの理論を取り入れ、さらに五感を刺激し、感じる事によって美術表現が可能になることを実践しています。
臨床美術のアートプログラムは、長年の実践研究によって開発されました。
美術に苦手意識を持つ人でも自然と楽しめ、その人ならではの表現ができるよう、多くの工夫がされています。
作品を飾ったり身につけたりすることで後々まで気持ちを新たにしたり、家族とのコミュニケーションが増えます。
その人自身が表れた作品は、形に残る「自分史」にもなります。
自己を開放して制作した過程や作品が、周囲に受け入れられることで自信を回復し、積極性が生まれてきます。
創作には自己実現の喜びがあります。
年齢や症状にかかわらず、みずみずしい感性が失われていないことを、自分自身、そして家族も共に感じることができます。
参加者とその家族が現状を受け入れながらも、再び希望を持って生きることができた、との声を多くの方々からいただいています。